ある朝、事前の連絡なしに調査官が会社や店舗を訪ねてくる。
それは強制調査なのか、断れるのか、税理士の到着まで待ってもらえるのか。
国税通則法の条文と国税庁の事務運営指針にさかのぼって整理します。
無予告調査は、事前通知を省略した任意調査です。
裁判官の許可状に基づく強制調査(犯則調査)とは全く別の制度で、根拠条文は国税通則法74条の10(事前通知を要しない場合)です。
同法74条の9第1項が定める「事前通知が原則」に対する例外という構造になっています。
法人税の調査は事前通知があるのが原則で、無予告は例外です。
ただし例外にあたると判断された場合、その理由は説明されませんし、無予告であったこと自体を不服申立てで争うこともできません。
なお法人の調査では通常、法人税・消費税・源泉所得税の調査が同時に行われます。
許可状を持たない訪問は必ず任意調査です。
もっとも、正当な理由なく質問に答えない、検査を拒む、物件の提示に応じないといった行為には罰則があります(通則法128条2号・3号。1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)。
調査を行う旨、目的、対象税目、対象期間、対象となる帳簿書類、調査対象者、調査担当者の氏名と所属。
この7項目は臨場後速やかに通知することが事務運営指針で定められています。
質問検査権に直接強制の力はありません。
レジ・金庫・引き出しの現金実査や事業用パソコンの確認(いわゆる現況調査)は承諾ベースで、実力行使ができるのは許可状に基づく犯則調査だけです。
法人税の調査対象は条文上「事業に関する帳簿書類その他の物件」です(通則法74条の2)。
会計データなどの電磁的記録も対象に含まれる一方、事業と無関係な代表者個人の私的財産には法人税の質問検査権は及ばないと考えられます。
青色申告の承認取消し、消費税の仕入税額控除の否認、推計課税。
この3つが連鎖し得るのが法人調査の特徴です。
さらに帳簿不提示等による加算税の加重措置もあります。
事前通知のある調査なら、日程連絡から臨場日までの数日間に自主的に修正申告すれば加算税は軽減されます。
無予告調査ではこの緩衝期間が存在しません。
「無予告調査=強制調査(マルサ)」ではありません。
強制調査は裁判官があらかじめ発する許可状に基づいて行われます(通則法132条1項)。
玄関先で許可状の提示がなければ、それは任意調査です。
逆に、任意調査だからといって「帰ってください」で終わる話でもありません。
正当な理由のない拒否には罰則と課税上の重い帰結があり、実務上は「拒む」のではなく「確認しながら応じる」ことになります。
感情的に追い返そうとすること。
正当な理由のない検査拒否は罰則の対象になり得るうえ、法人では帳簿の提示拒否が青色取消し・仕入税額控除否認・推計課税に直結し得ます。
その場しのぎの推測で答えること。
あいまいな記憶に基づく回答が、後に仮装隠蔽(重加算税)の認定材料になることがあります。
取引先や従業員に口裏合わせを頼むこと。
それ自体が無予告調査の理由類型(手続通達5-9(5))に該当し得るだけでなく、重加算税・罰則のリスクを大きく高めます。
内容を確認しないまま質問応答記録書に署名すること。
後から事実関係を争うことが難しくなります。
そもそも実地の調査なのかを確かめる。
事前通知の規定が及ぶのは「実地の調査」だけです。
文書や電話による連絡、税務署への来署依頼といった簡易な接触や行政指導には、そもそも事前通知の規定が適用されません。
件数としてはむしろ簡易な接触のほうが多く、連絡が来たからといって無予告調査とは限りません。
条文・通達・裁判例まで確認する場合はこちらへ。
無予告調査は、国税通則法74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)に基づく任意調査です。
事前通知を省略しているだけで、権限の性質そのものは通常の実地調査と変わりません。
| 項目 | 税務調査(無予告調査を含む) | 犯則調査 |
|---|---|---|
| 根拠 | 通則法74条の2から74条の13の4まで | 通則法第11章(131条以下) |
| 強制手段 | なし | 臨検・捜索・差押え等 |
| 令状 | 不要(強制手段がないため) | 裁判官があらかじめ発する許可状(132条1項) |
| 拒否した場合 | 罰則による間接強制(128条2号・3号) | 拒否自体への罰則はない |
質問に答えない、偽りの答弁をする、検査を拒み妨げ忌避する、正当な理由なく物件の提示提出に応じない。
これらには1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科されます(通則法128条2号・3号)。
刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)により令和7年6月1日から懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたため、現行法の刑名は「拘禁刑」です。
条文番号の取り違えに注意。
通則法127条は税務職員側の守秘義務違反に対する罰則(2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)であり、納税者の受忍義務とは無関係です。
解説記事の中には127条と128条を取り違えているものがあります。
川崎民商事件(最高裁大法廷判決 昭和47年11月22日 刑集26巻9号554頁)は、質問検査が刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものではないとして、憲法35条(令状主義)・38条(黙秘権)に違反しないとしました。
令状なしに突然臨場できることの憲法上の説明はここにあります。
裏を返せば、質問検査権の行使が実質的に刑事責任追及のための資料収集になれば、この論理は成り立ちません。
通則法74条の8が「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」と定めているのは、この趣旨です。
質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている(要旨)
最高裁第三小法廷決定 昭和48年7月10日 刑集27巻7号1205頁同決定は、実施の日時場所の事前通知や調査の理由・必要性の個別具体的な告知も法律上一律の要件ではない、と述べています。
ただし平成23年12月の改正で事前通知は通則法74条の9として法律上の要件になったため、この部分はそのままの形では現行法に妥当しません。
現在も生きているのは、調査の理由・必要性の個別具体的な告知は要件ではないという部分と、実施の細目は社会通念上相当な限度で税務職員の合理的な選択に委ねられるという枠組みの2点と考えられます。
法人税(地方法人税を含む)の質問検査権の相手方は、通則法74条の2第1項2号のイ・ロの2類型です。
事前通知の対象となる「納税義務者」は74条の9第3項1号によりイの法人に限られます。
ロの反面調査先については、事前通知に関する法令上の規定がありません(国税庁FAQは、運用上、原則としてあらかじめ対象者へ連絡を行うとしています)。
また質問検査権は、手続通達1-4により法人の代理人、使用人その他の従業者にも及ぶとされており、経理担当者や店舗の従業員への質問はこの範囲で行われます。
| 条文 | 検査の対象 |
|---|---|
| 74条の2(法人税・所得税等) | その者の事業に関する帳簿書類その他の物件 |
| 74条の3(相続税・贈与税) | 納税義務者等の財産若しくは当該財産に関する帳簿書類その他の物件 |
相続税の調査が財産そのものを検査対象とするのに対し、法人税の調査対象は「事業に関する」物件に限定されています。
事業と関係のない代表者個人の私的財産には、法人税の質問検査権は及ばないと考えられます(代表者個人の所得税調査が併行して行われる場合は別です)。
他方、事業用の現金・レジ・金庫・在庫・事業用パソコン等は「事業に関する物件」として検査対象になり得ます。
手続通達1-5は、法令上備付けが義務付けられた帳簿書類のほか、調査の目的を達成するために必要と認められる物件も含まれ、国外において保存するものも含まれるとしています。
「物件」には電磁的記録(データ)が含まれるというのが現行の整理です。
国税庁FAQ(一般納税者向け)問5は、帳簿書類等が電磁的記録である場合、提示はディスプレイの画面上で調査担当者が確認し得る状態にして示す方法により、提出はプリントアウトした書面を渡す方法のほか、調査担当者が持参した記録媒体への保存、e-Tax・オンラインストレージ・メールによる提出の方法があるとしています。
また通則法65条4項は、加算税の加重措置の対象となる「帳簿」に電磁的記録を含むと明記しており、条文上も帳簿データが対象となることが前提とされています。
電子取引データは「紙に出力して見せれば足りる」とは言い切れません。
電子帳簿保存法の令和3年度改正により、電子取引データの出力書面による保存の取扱いは廃止され(宥恕措置は令和5年12月31日で終了)、令和6年1月1日以後は電子のまま保存することが原則です。
猶予措置や検索要件の緩和も、税務職員のダウンロードの求めに応じられるようにしていることが前提とされています。
紙で作成・保存している帳簿を紙で提示することは現在も差し支えないと考えられますが、電子データとして作成・保存されている帳簿書類については、データそのものが検査・提示・提出の対象となり得ます。
現金商売の法人に対する無予告調査で行われる、店舗・事務所の現況確認、レジ・金庫の現金実査、事業用パソコンの確認等(実務でいう現況調査。法令用語ではありません)は、いずれも質問検査権の行使としての任意の検査であり、承諾を得て行われるものです。
承諾なく金庫や引き出しを実力で開けさせる権限はなく、それができるのは通則法132条の許可状に基づく犯則調査のみです。
ただし正当な理由なく検査を拒めば128条の間接強制の対象になり得るほか、帳簿の提示拒否には法人特有の重い帰結(後述の5)があります。
法人の調査においては、一般的には、法人税(地方法人税を含む)、消費税(地方消費税を含む)及び源泉所得税(復興特別所得税を含む)の調査が同時に行われます(国税庁FAQ税理士向け)。
事前通知・臨場後の7項目通知は対象税目を特定して行われ、加算税の「調査通知」も税目ごとに成立するため、どの税目について通知があったかは加算税の適用区分に直結します。
なお源泉所得税は徴収納付方式のため、その加算税は不納付加算税(通則法67条。原則10%、告知を予知しない自主納付は5%)であり、調査通知による区分の仕組みはありません。
条文の文言は「通知しなければならない」ではなく「通知するものとする」です。
通知事項は次の11項目です。
| 通知事項 | 根拠 | 無予告の場合 |
|---|---|---|
| 実地の調査において質問検査等を行う旨 | 74条の9第1項柱書 | 臨場後速やかに通知 |
| 調査を開始する日時 | 同項1号 | 脱落 |
| 調査を行う場所 | 同項2号 | 脱落 |
| 調査の目的 | 同項3号 | 臨場後速やかに通知 |
| 調査の対象となる税目 | 同項4号 | 臨場後速やかに通知 |
| 調査の対象となる期間 | 同項5号 | 臨場後速やかに通知 |
| 調査の対象となる帳簿書類その他の物件 | 同項6号 | 臨場後速やかに通知 |
| 調査対象者の氏名及び住所又は居所 | 施行令30条の4第1項1号 | 臨場後速やかに通知 |
| 調査担当者の氏名及び所属官署 | 同項2号 | 臨場後速やかに通知 |
| 日時・場所の変更に関する事項 | 同項3号 | 脱落 |
| 74条の9第4項の規定の趣旨 | 同項4号 | 調査の途中で非違が疑われた場合は対象となる旨を説明 |
前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第一項の規定による通知を要しない。
国税通則法74条の10判断の材料は、申告の内容、過去の調査結果の内容、営む事業内容に関する情報、その他国税庁等が保有する情報の4つに限定されています。
効果要件は、把握困難のおそれ、又は適正な遂行への支障のおそれの2つです。
判断の主体は、条文上「税務署長等」(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長)であって、臨場する調査担当者個人ではありません。
事務運営指針は「複数の納税義務者に対して同時に調査を行う場合においても、事前通知を行わないことについては、個々の納税義務者ごとに判断する」と定めています。
同族会社では法人の調査と代表者個人の所得税調査が同時に行われることが多く、その場合、事前通知の要否は法人と代表者個人とで別々に判断されます。
調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)は、事前通知を行うことなく実地の調査を実施する場合であっても、臨場後速やかに7項目を通知するとしています。
さらに、税務代理人がある場合には当該税務代理人に対しても臨場後速やかに通知することとされています。
事前通知の11項目のうち、通知として落ちるのは調査開始日時・調査場所・日時場所の変更に関する事項・74条の9第4項の趣旨の4つで、うち74条の9第4項の趣旨に相当する内容は「非違が疑われた場合には対象となる旨」の説明として行われる建付けです。
他方、無予告とした理由の説明義務は法令上ありません。
国税庁のFAQ(一般納税者向け)問21は「法令上、事前通知を行わないこととした理由を説明することとはされていません」とし、あわせて「事前通知をしないこと自体は不服申立てを行うことのできる処分には当たりません」と明記しています。
したがって無予告であったこと自体を単独で争うことはできず、争うとすれば、後続の更正処分等の取消訴訟の中で調査手続の違法として主張するか、国家賠償請求によるかの2つの道になります。
国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達(手続通達)が例示を置いています。
「現金商売だから無予告になる」という説明は、通達に反します。
手続通達5-7は「単に不特定多数の取引先との間において現金決済による取引をしているということのみをもって事前通知を要しない場合に該当するとはいえない」と明記しています。
現金商売であることは判断要素の一つにすぎず、それだけでは無予告の理由になりません。
実務上、無予告調査が多いとされるのは飲食・小売・美容など現金商売系の業種です。
国税庁の統計でも、不正発見割合の上位はバー・クラブ、その他の飲食、外国料理、美容、大衆酒場・小料理といった業種が占めます(後述の9)。
ただし通達の建付け上は、現金商売であること自体は判断要素の一つにすぎず、無予告とするには、申告内容・過去の調査結果・保有情報などから把握困難のおそれ等が個別に認められる必要があります。
また、法人税の無予告要件が争われた東京地裁令和3年10月6日判決(後述の6)は、売上代金の一部を代表者個人名義口座で受け入れていたこと等の保有情報を挙げたうえで、「一般に、原告のような家族経営の中小企業では、帳簿類等の改ざんを防ぐための内部統制が不十分であることが多い」としてあてはめを行いました。
この一般論によるあてはめには学説上の批判が強く、無予告調査が広く適法化されたと読むべきではないと考えられます。
法人税の調査は事前通知があるのが原則です。
74条の10が「前条第一項の規定にかかわらず」という例外規定の構造をとっていること、事務運営指針が「原則として、調査の対象となる納税義務者及び税務代理人の双方に対し、調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて、電話等により事前通知する」としていることから明らかです。
法人調査で特に重要なのがこの論点です。
帳簿書類の提示拒否には、罰則(128条)とは別に、次の課税上の帰結が連鎖し得ます。
法人税法127条1項1号は、帳簿書類の備付け・記録・保存が財務省令の定めに従って行われていないことを取消事由とします。
事務運営指針「法人の青色申告の承認の取消しについて」は、帳簿書類の備付け等とは単に物理的に帳簿書類が存在することのみを意味するにとどまらず、これを税務職員に提示することを含むとし、調査で提示を求めたにもかかわらず拒否した場合には取消事由に該当し、提示がされなかった事業年度のうち最も古い事業年度以後について承認を取り消すとしています。
判例上も、最高裁第一小法廷平成17年3月10日判決(民集59巻2号379頁)が、法人税の事案で、検査に当たって適時に帳簿書類を提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は取消事由に該当すると判断しています。
取消しにより、欠損金の繰越控除や青色申告を要件とする特別償却・税額控除等の特典が遡って失われます。
消費税法30条7項は、帳簿及び請求書等を保存しない場合には仕入税額控除を適用しないと定めます。
最高裁第一小法廷平成16年12月16日判決(民集58巻9号2458頁)は、この「保存」について、税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要すると判示しました(同旨の最高裁平成16年12月20日判決もあります)。
調査での提示拒否は「保存がない」ものとして控除否認に直結し得ます。
インボイス制度下でも、帳簿及び適格請求書等の保存を控除要件とする構造は維持されており、この判例の枠組みは基本的に引き続き妥当すると考えられます。
仕入税額控除が全額否認された場合の金額的影響は極めて大きくなります。
法人税法131条は推計による更正・決定を定めますが、青色申告書に係る法人税の課税標準・欠損金額の更正は推計によることができないと規定しています。
裏を返せば、(1)の青色取消しが行われると推計課税が可能になります。
提示拒否 → 青色取消し → 推計課税+仕入税額控除否認、さらに仮装隠蔽が認定されれば重加算税。
この連鎖が法人調査の特徴です。
加えて令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税については、税務職員から求められた帳簿(電磁的記録を含む)の提示・提出をしなかった場合等に、過少申告加算税・無申告加算税が10%(記載不十分の程度により5%)加重される措置(通則法65条4項・66条5項)も設けられています。
平成23年改正で事前通知が法定化された後、74条の10の要件該当性が争われた裁判例は相当数あります。
法人税の無予告調査そのものが争われた代表例が、次の東京地裁令和3年判決です。
| 裁判例 | 判断のポイント |
|---|---|
| 東京地裁 令和3年10月6日判決 (税資271号順号13613) 控訴審 東京高裁令和4年6月2日 最高裁令和4年12月9日 上告不受理 |
法人税・消費税の無予告調査の事案。 売上代金の一部を代表者個人名義口座で受け入れ、申告書の「預貯金等の内訳書」に当該口座の記載がなかったこと等を挙げたうえで、「一般に、原告のような家族経営の中小企業では、帳簿類等の改ざんを防ぐための内部統制が不十分であることが多い」としてあてはめた。 無予告理由の説明義務は条文上ないとも判示。 |
| 千葉地裁 平成29年11月15日判決 (税資267号順号13088) |
国家賠償請求の事案。 合理的な理由なく漫然と要件該当性の判断をしたと認め得る事情がある場合には国賠法上違法となるとし、国の側に判断の根拠とした事実関係を明らかにする責任があるとした。 請求自体は棄却。 |
| 東京地裁 令和2年10月15日判決 (税資270号順号13464) |
無申告のインターネット取引の事案。 「データの改ざんや消去等が容易に行われ得る」として無予告要件の充足を認めた。 調査手続の瑕疵は原則として更正処分等の効力に影響せず、重大な違法を帯びる場合に限り取消事由となるとも述べている。 |
| 東京高裁 令和4年8月25日判決 (税資272号順号13747) |
調査結果説明を欠いた事案。 説明責任を果たさず修正申告等の機会が実質的に失われたと評価される事案では課税処分を取り消すべき場合があるとし、国が主張した重大違法限定基準を明示的に排斥した。 ただし結論としては取消しを認めず、納税者の請求は棄却。 |
令和3年判決の読み方には注意が必要です。
「家族経営の中小企業」という一般論であてはめた点については、74条の10が判断材料を「国税庁等が保有する情報」に限定している趣旨に反するとして学説上の批判が強く、解釈・適用の当否は分かれています。
無予告調査が広く適法化されたと読むべき判決ではありません。
なお、平成23年改正後の税務調査手続に関する最高裁判例(法廷意見)は確認されていません。
「事前通知」に関する公表裁決は3件あります。
無予告調査で最も実害が大きいのは、加算税の軽減枠が事実上失われる点です。
仕組みを順に見ていきます。
| 修正申告のタイミング | 税率 | 加重部分 |
|---|---|---|
| 調査通知前かつ予知前 | 課されない | ― |
| 調査通知後・予知前 | 5% | 10% |
| 予知後 | 10% | 15% |
加重部分とは、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分をいいます。
「調査通知」とは、通則法74条の9第1項4号(対象税目)・5号(対象期間)に掲げる事項と、政令で定める事項の通知をいいます。
この政令に当たる国税通則法施行令27条4項は、政令で定める事項を「実地の調査において質問検査等を行わせる旨」としたうえで、括弧書きで「法第七十四条の十(事前通知を要しない場合)の規定に該当する場合には、調査を行う旨」と読み替えています。
つまり無予告調査では、臨場して「調査を行う旨」「対象税目」「対象期間」の通知を受けた時点で、調査通知が成立します。
事務運営指針が臨場後速やかに通知すべき7項目の冒頭にこの3つを置いているのは、この構造によるものです。
「無予告調査では調査通知が行われない」という説明を見かけますが、これは誤りです。
臨場調査、取引先の反面調査又は申告書の内容を検討した上での非違事項の指摘等により、その法人が調査のあったことを了知したと認められた後に修正申告書が提出された場合の当該修正申告書の提出は、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当する。
(注)臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない。(要旨)
事前通知がある通常の調査では、日程調整の連絡(=調査通知)を受けてから臨場日までの期間が、調査通知後ではあるが予知前という期間になります。
この間に修正申告をすれば5%(超過部分10%)で済みます。
これに対し無予告調査では、調査通知の成立と臨場が同時に起こるため、この緩衝期間が存在しません。
臨場後に修正申告をしても原則として予知後の扱いとなり、10%(超過部分15%)が適用されます。
条文の建付けとしては臨場後でも予知前なら5%の余地は残りますが、上記事務運営指針が「原則として予知に該当する」としている以上、実際には期待しにくいと考えるべきです。
| 区分 | 50万円以下 | 50万円超300万円以下 | 300万円超 |
|---|---|---|---|
| 調査通知前かつ予知前 | 5% | 5% | 5% |
| 調査通知後・予知前 | 10% | 15% | 25% |
| 予知後 | 15% | 20% | 30% |
300万円超30%は、令和5年度改正により令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税に適用されます。
このほか、前年度・前々年度にも無申告加算税等を課された場合等の10%加重(66条6項)、帳簿不提示等による10%(又は5%)加重(65条4項・66条5項)もあります。
仮装隠蔽があれば重加算税(過少申告に代えて35%、無申告に代えて40%。短期間に繰り返された場合はさらに10%加重)となります。
源泉所得税の不納付加算税(67条)には調査通知による区分の仕組みがなく、告知を予知しない自主納付なら5%、告知を受ければ10%です。
書面添付(税理士法33条の2)を行っている場合、通常は事前通知の前に税理士が意見を述べる機会(同法35条1項の意見聴取)が与えられます。
この意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出された場合には「更正があるべきことを予知してされたもの」に当たらないとされており(法人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)第2節3)、加算税なしで是正できる貴重な機会です。
同事務運営指針第2節1は、意見聴取は「事前通知を行わないこととしたときを除き」行うと明記しています。
書面添付をしていても無予告調査はあり得ますし、その場合には書面添付の最大の利点である事前の意見聴取が働きません。
なお、更正をすべき場合の意見聴取(税理士法35条2項)は事前通知を要件としていないため、無予告調査を経て更正に至る段階では、なお適用の余地があります。
また同条4項は、これらの措置の有無が調査に係る処分の効力に影響を及ぼすものと解してはならないと定めています。
事前通知は、税務代理人がある場合には税務代理人に対しても行われます(通則法74条の9第1項本文の括弧書き、税理士法34条1項)。
さらに、納税者の同意が税務代理権限証書に記載されている場合には、納税者への通知は税務代理人に対してすれば足りるとされています(通則法74条の9第5項)。
令和6年4月1日以後の様式では「調査の通知・終了の際の手続に関する同意」欄の「調査の通知」にレ印を付します。
法人ならではの注意点。
法人税は毎期申告があるため、税務代理権限証書も毎期の申告書に添付して提出するのが通常です。
同意欄への記載を毎期忘れないことが実務上のポイントになります。
また、源泉所得税を含めた同時調査に対応するには、税務代理の対象税目に「所得税(復興特別所得税を含む)※源泉徴収に係るもの」を記載しておくことも重要です。
| 項目 | 令和6事務年度 |
|---|---|
| 法人税の実地調査件数 | 5万4千件(対前年比92.6%) |
| 非違があった件数 | 4万2千件 |
| うち不正計算があった件数 | 1万3千件(不正発見割合23.5%) |
| 申告漏れ所得金額 | 8,198億円(うち不正所得金額2,980億円) |
| 法人税の追徴税額 | 2,187億円 |
| 1件当たり申告漏れ所得金額 | 1,508万2千円 |
| 1件当たり追徴税額(法人税) | 402万3千円 |
| 法人消費税の実地調査 | 5万3千件・追徴税額1,220億円 |
| 法人税・消費税の追徴税額合計 | 3,407億円(直近10年で最高) |
| 源泉所得税の実地調査 | 6万4千件・非違2万1千件・追徴税額404億円 |
| 簡易な接触(法人税・消費税) | 8万5千件(追徴税額265億円) |
| 簡易な接触(源泉所得税) | 11万9千件(追徴税額82億円) |
| 業種 | 不正発見割合 |
|---|---|
| バー・クラブ | 62.3% |
| その他の飲食 | 45.2% |
| 外国料理 | 40.2% |
| 美容 | 34.5% |
| 大衆酒場・小料理 | 34.4% |
現金商売系の業種が上位を占めており、実務上、無予告調査が語られやすい業種と重なります。
重点課題としては、消費税還付申告法人(実地調査4,802件・追徴299億円)、海外取引法人等(申告漏れ所得2,096億円の把握)、無申告法人(追徴355億円)が挙げられています。
公表されていないもの。
国税庁は無予告調査の件数・割合を公表していないため、法人税調査のうちどの程度が無予告なのかを示す公的な数値はありません。
更正決定等の期間制限(通則法70条)により、法人税の更正・決定は原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合等は7年です。
欠損金額を増減させる更正等は10年です(平成30年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金に係るもの)。
臨場時に通知される「調査の対象となる期間」は直近数期分とされることが多いものの、調査の途中で非違が疑われることとなった場合には、74条の9第4項によりこれらの期間以外にも質問検査等が及び得ます。
令和7年度・令和8年度の税制改正において、事前通知(74条の9)・事前通知を要しない場合(74条の10)・加算税本体について、本論点に直接影響する改正は確認されていません。
関連事項として、令和7年度改正で防衛特別法人税が創設され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から申告義務が生じるため、今後の法人税調査では対象税目にこれが加わっていくことが見込まれます。
また令和8年度改正では犯則調査手続のデジタル化(電磁的記録提供命令の創設等。令和9年10月1日施行予定)が行われますが、これは許可状に基づく犯則調査に関する改正であり、無予告調査(任意調査)の手続に直接影響するものではありません。